NO.015801 YEAR 2002 産業デザイン計画分野 両角研究室 (修士)

実世界をベースとしたWebサイトの提案 ―書籍の購入を事例として―

大竹 一也

1. 研究の背景と目的

実世界における行為は、知識やその知識を活用する能力、つまりユーザーの経験が影響している。オンラインショッピングなどのWebサイトにおいても、実世界の経験をベースに行動していると考えられる。そのため本研究は、Webサイト上でユーザーの経験を自然なかたちで活かすことのできるデザインを実装するため、実世界をベースとしたWebサイトの指針を決定することが目的である。

2. 研究の方法

本研究は、以下のステップで行った。
I. 実世界とWebサイトにおける行為を比較
II.比較実験を踏まえた行為の振り返り
III、比較実験と行為の振り返りから抽出した要素をもとに、デザインしたモデルの検証

3. 比較実験

実世界の書店におけるユーザーの行為とその書店のWebサイトにおけるユーザーの行為の比較実験を行った。(図1)

3.1 結果

実世界とWebサイトにおける共通する部分として、本を選ぶ際に内容や価格などを確認する。異なる部分として、本の探索の仕方や購入する際の手続きによる躊躇などがあった。

3.2 比較実験を踏まえた行為の振り返り

実:実世界の書店、W:Webサイトの書店

3.2.1 探索の特性

実:検索を行う際、経験や知識の影響が大きい
店員に聞くことも可能だが、聞く内容が暖昧なほど聞きづらい。自分で本を探す場合、本がどのジャンルに属し、どの棚にあるのかなどの情報処理が行われる。この情報処理は個人差が出やすく、個人の経験や知識が影響してくる。W:検索を行う際、経験や知識の影響が小さいいくつかのキーワードをあげ、関連しそうなジャンルに辿り着く。Webサイトでは、ジャンルが思い浮かばす、キーワードの段階でも検索でき、検索機能を使い探索することができる。
そのためWeb書店のアマゾンでは、キーワードや著者などを入力する「サーチ検索」ジャンルから探す「ブラウズ」がある。ブラウズ機能は関連性のあるジャンルでも分類している。
しかし、トップページ上の発見や出会いに繋がる情報を一覧することができない(→提案1)

3.2.2 選択の特性

実:本を手に取り吟味する
本を主観的(興味や好みなど)に判断している

W:本を手に取って見ることが出来ない
Webサイトでは、実物を手にとって見ることができない。そのため、ユーザーに選択の手助けとなる情報が必要となる。
そのためWeb書店のアマゾンでは、内容、目次、表紙の画像などの情報を提示しているが、レイアウトなどの好みが影響してくる情報の提示はされていない。(→提案2)

実:本のポイントを覚え比較する
店内で比較(他ジャンル)と同じ棚で比較
(同ジャンル)があり、他ジャンルの比較は記憶に頼るしかなく、同ジャンルの比較は何回も見直すことで選択の決定を行っている。

W:「覚える」「メモする」「プリントする」
「別ウィンドウで表示」「一覧表」で比較する「プリント」「別ウィンドウ」は情報が詳細なため比較がしやすい。「一覧表」で他ジャンル同士の本を一覧表に入れておく場合は、思い出すためのきっかけになればよいため、最低限の情報でよい。しかし、同ジャンルで比較する場合は、きっかけではなく判断材料となる情報の比較が必要となる。(→提案3)

3.2.3 移動の特性

実:動線を描きながら活動する(図2)
我々は動線の中で常に情報取得し、瞬時に有効な情報に処理している。その結果、レジに辿り着くまでに他の本に興味を持ち、買う本が増えたり、買う本が変わるということが起こる。

W:点と点を飛び回るように行き来する
Web書店ではトップページから会計のページまで点と点の遷移となる。我々はその点と点のみの情報取得になり、実世界のような遷移間の情報取得は存在しない。
そのためWeb書店のアマゾンでは、商品を選び、購入手続きのページまで「おすすめ商品.この本を買った人がその他に買った本」などの情報提示を行っている。

3.2.4 購入の特性

実:次の状態や結果の予想ができる
日常的に経験しているため、手順を踏んでいる感覚はない。

W:次の状態や結果がわからない
Web上では物理的なものを扱えないため、すべてが情報のやり取りのみで行われる。そのため、手続きを踏ませるような表現になっているが、その手続きの点と点の遷移間に情報が無いため、ユーザーが次の行為に移れないという問題が起こってくる。
そのためWeb書店のアマゾンでは、次の状態や結果を伝えるガイドを提示している。

4.検証実験

比較実験から、アマゾンに不足していると思われる要素のデザイン提案を行い、検証した。

4.1 結果

提案1「トップページの案内図」(図3)、提案2「見開きページの画像」(図4)、提案3「購入検討リスト」(図5)のうち提案2.3の二つは有効性を得ることができた。

提案1:注目されなかった
→実験後に提案1の説明をしたが、被験者からは有効性を検証できるような解答はなかった。

提案2:購入する本を選ぶ要素となっていた
真っ先に「見開きページの画像」を見る被験者や最後に確認として見る被験者がいた。

提案3:始めは使われなかったが、説明後は比較に役立っていた
被験者1人目は、購入検討リストを使う前と後では選んだ本に変化があった。
→はじめは値段で判断してしていたが、内容を見比べられることで、今「興味あること」に当てはめながら判断することができたためだと考えられる。
被験者2人目は、購入検討リストを使うことでより確信を持ち同じ本を選んでいた。
→ランキングや評価を比較できることで、本の差がより明確になったためだと考えられる。

5.結論

我々は実世界において、さまざまな情報を無意識のうちに取得している。その「無意識の情報取得」をすることに対してWebサイト上で適切にデザインされていないことが、現在のWebサイト上で起こっている問題(欲しいものが探せない、実際に買うまでには至らないなど)の原因になっていると考える。
我々が意識的に取得している情報だけをデザインするのではなく、「無意識に行う情報取得」を補うともに、情報を有効に利用できるようなデザインをしなくてはならないと考える。

関連する分野の論文

絞り込み 並べ替え

並べ替え

年度

学生番号

分野

所属

NO.225801 YEAR 2023 地域共創科学分野 大沼研究室 (修士) 宮城県大和町龍華院庭園の石組みと配置構成にみる思想世界の表現について 靳 嘉偉
NO.225802 YEAR 2023 地域共創科学分野 大沼研究室 (修士) 凍み大根の干し場と生業景-中山間地域における住居の傍らで営む生業環境の研究- 吉田 陽菜子
NO.215801 YEAR 2022 環境造形計画分野 大沼研究室 (修士) 地方都市における街路空間の有効活用方法に関する研究-仙台市の中心市街地に着目して- 佐藤 優作
NO.215802 YEAR 2022 生活デザイン科学分野 畠山研究室 (修士) 市民センターが大規模災害時に果たす役割-仙台市における東日本大震災時の実態調査から- 佐藤 優太
NO.215804 YEAR 2022 環境造形計画分野 大沼研究室 (修士) メガソーラー発電設備が中山間地域の生活景に及ぼす影響 堀 あかね
NO.195801 YEAR 2020 生活デザイン科学分野 小山研究室(畠山研) (修士) 仙台市中心部における視覚的側面からみる街路景観の特徴 −街路形成過程と街区変容に着目して− 結城 梨奈
NO.185801 YEAR 2019 環境造形計画分野 大沼研究室 (修士) 天然スレート民家の成立過程に関する研究―南三陸町入谷の屋根替えに注目して― 阿部 正
NO.185802 YEAR 2019 環境造形計画分野 大沼研究室(畠山研) (修士) 生活圏域からみたキャンパスタウンの比較考察−仙台市における郊外開発と世代構成に着目して− 今川 可南子
NO.185803 YEAR 2019 産業デザイン計画分野 両角研究室(梅田研) (修士) 中途視覚障害者の点字学習のための触知辞書のデザイン 于 静瑶
NO.005802 YEAR 2001 環境造形計画分野 二瓶研究室 (修士) 東北工業大学新棟く環境情報工学科>のデザイン展開の記録とその創造過程についての若干の考察 大友 浩幸
NO.005801 YEAR 2001 福祉デザイン計画分野 原田研究室 (修士) 公共トイレの歴史的および人間工学的研究 トイレブース内のアクセサリーを中心として 伊藤 まり子
NO.005808 YEAR 2001 環境造形計画分野 二瓶研究室 (修士) 宮城県における明治・大正期小学校建築の意匠と変遷に関する考察 渡部 ひとみ
NO.005806 YEAR 2001 福祉デザイン計画分野 梨原研究室 (修士) 肢体不自由のための手の作業訓練具のデザインに関する研究 鈴木 豊
NO.005805 YEAR 2001 生活デザイン科学分野 石川研究室 (修士) 住宅における室内熱湿気環境とエネルギー消費に関する研究 設楽 佑子
NO.005804 YEAR 2001 産業デザイン計画分野 山下研究室 (修士) たたき土技術の工業化に関する基礎的研究―製品の意匠展開を含めて― 酒井 裕希
NO.005803 YEAR 2001 産業デザイン計画分野 舛岡研究室 (修士) 「六華倶楽部」移転改築計画―皇室専用スキーロッジから都市住宅への転用の記録― 北川 貴子
NO.005807 YEAR 2001 福祉デザイン計画分野 原田研究室 (修士) カーナビゲーションシステムにおけるユーザビリティに関する研究 谷本 龍
NO.015803 YEAR 2002 福祉デザイン計画分野 原田研究室 (修士) 履物に関する人間工学的研究―脚にやさしい新しいタイプの履物の提案 杉本 史朗
NO.015802 YEAR 2002 産業デザイン計画分野 舛岡研究室 (修士) 雑木林の存在意義と機能について ―既存の研究資料整理とその吟味― 島貫 陽
NO.015801 YEAR 2002 産業デザイン計画分野 両角研究室 (修士) 実世界をベースとしたWebサイトの提案 ―書籍の購入を事例として― 大竹 一也
NO.015804 YEAR 2002 環境造形計画分野 二瓶研究室 (修士) <新棟計画>のデザインプロセスから学ぶ<キャンパス空間>のデザイン研究 津田 紘子
NO.025801 YEAR 2003 福祉デザイン計画分野 梨原研究室 (修士) 仙台市を事例とした公共交通システムのデザインの方向性に関する研究―中心市街地を対象として― 内田 優雨
NO.025802 YEAR 2003 福祉デザイン計画分野 原田研究室 (修士) メンタルワークロードの評価に関する研究 ―前頭部脳血流変化を指標として― 佐々木 暁一
NO.025803 YEAR 2003 生活デザイン科学分野 石川研究室 (修士) 空気流動特性を考盧した室内の換気計画に関する研究 佐野 裕志
NO.025805 YEAR 2003 生活デザイン科学分野 石川研究室 (修士) 東北地方の住まいにおける室内環境とエネルギー消費の動向調査とその分析 久光 達也
NO.025804 YEAR 2003 環境造形計画分野 二瓶研究室 (修士) 「東北工業大学環境情報工学科研究棟・教育棟」の制作過程にみる<デザイン行為>について 寺山 明宏
NO.035805 YEAR 2004 産業デザイン計画分野 舛岡研究室 (修士) 暮しと生産が形成するビオトープネットワークに関する基礎研究 齋藤 智子
NO.035803 YEAR 2004 生活デザイン科学分野 石川研究室 (修士) 建物の基礎杭を利用した地中熱源ヒートポンプシステムの性能評価に関する研究 小島原 嘉也
NO.035802 YEAR 2004 福祉デザイン計画分野 梨原研究室 (修士) 車いすと人との適合性に関する研究 〜新型6輪車いすの共同開発とその評価を通して〜 興野 和樹 
NO.035804 YEAR 2004 生活デザイン科学分野 庄子研究室 (修士) Webサイト『仙台デザイン史博物館』の提案と制作 ―「近代工芸・デザイン研究発祥の地」であることを伝えるために― 齋藤 州一
NO.035801 YEAR 2004 福祉デザイン計画分野 原田研究室 (修士) カーナビゲーションシステムにおけるユーザビリティに関する研究 ~性差の視点から~ 大柿 崇雄 
NO.045804 YEAR 2005 福祉デザイン計画分野 梨原研究室 (修士) 弱視児のための絵本の制作に関する研究 三浦 澄子
NO.045801 YEAR 2005 環境造形計画分野 西野研究室 (修士) オーディオウェーブフォームとキーフレームの組み合わせによる映像の制作 青木 陽平
NO.055801 YEAR 2006 産業デザイン計画分野 両角研究室 (修士) 活動のパターン解析からデザインパターンを生み出す方法の研究―町内会、家族というコミュニティ一の活動を対象として― 敦賀 雄大
NO.055802 YEAR 2006 生活デザイン科学分野 石川研究室 (修士) 東北地方の大学を対象としたエネルギー消費量に関する調査研究 山舘 和磨
NO.065802 YEAR 2007 環境造形計画分野 荒井研究室 (修士) 鍛金技法による造形表現の研究と制作―耐候性鋼を用いて― 萩原 陵
NO.065801 YEAR 2007 福祉デザイン計画分野 梨原研究室 (修士) 蛇口の使いやすさに関する研究―ハンドルタイプを対象として― 竹田 里美
NO.075801 YEAR 2008 産業デザイン計画分野 両角研究室 (修士) 活動のパターンをデザイン開発に活かす方法 ーコミュニティの情報共有活動を対象としてー 足立 邦登
NO.055901 YEAR 2009 福祉デザイン計画分野 梨原研究室 (博士) 車いすの開発・生産・供給・使用と介護支援システムに関するデザイン学的研究 吉田 泰三
NO.095802 YEAR 2010 産業デザイン計画分野 両角研究室 (修士) コミュニティの継統的な活性化を支援するWebアプリケーションの開発 諏訪 悠紀
NO.105801 YEAR 2011 生活デザイン科学分野 石川研究室 (修士) 仙台市の住宅に設置された地中熱ヒートポンプシステムの性能評価に関する研究 鎌田 祐次
NO.105802 YEAR 2011 福祉デザイン計画分野 原田研究室 (修士) 車いすによる鉄道車両の乗降に関する研究 千葉宏平
NO.105803 YEAR 2011 産業デザイン計画分野 両角研究室 (修士) 活動に適合する道具のデザインプロセス 地域コミュニティの情報共有活動を対象として 松本 匠充
NO.115801 YEAR 2012 産業デザイン計画分野 両角研究室 (修士) 分散型コミュニティにおける議論の支援方法の研究-非同期非対面コミュニケーションにおける通知機能の有効性の研究- 阿部 卓弥
NO.115802 YEAR 2012 生活デザイン科学分野 石川研究室 (修士) 仮設住宅の個と群のデザイン 鈴木 茉莉奈
NO.115803 YEAR 2012 産業デザイン計画分野 両角研究室(堀江研) (修士) モバイルアプリのデザインのためのコミュニケーション研究 ―対面コミュニケーションと非対面コミュニケーションの比較研究― 鈴木 綾
NO.115805 YEAR 2012 生活デザイン科学分野 石川研究室 (修士) 新ゆりあげアクロボリス構想 生産と暮らしの再生を目指した拠点施設計画 〜名取市閑上地区を事例として〜 森 祐太
NO.125803 YEAR 2013 福祉デザイン計画分野 原田研究室 (修士) 広域災害における避難誘導サインとしての装置に関する研究  永山 雅大
NO.125801 YEAR 2013 産業デザイン計画分野 両角研究室 (修士) 学習コミュニティの情報共有支援ツールの開発 櫻井 清隆
NO.125802 YEAR 2013 福祉デザイン計画分野 太田研究室 (修士) 歩行者のメタ認知に関する研究 ―安全行動に関する自己評価への背景要因― 菅沢 俊平
NO.125804 YEAR 2014 環境造形計画分野 荒井研究室(大沼研) (修士) コミュニティがつくり育てる地域景観に関する研究 —仙台市青葉区花壇・大手町地区を事例として— 渡部 生
NO.135801 YEAR 2014 福祉デザイン計画分野 原田研究室(梅田研) (修士) ブナ材成形合板のスツールの制作―「座り心地」の客観的要因に関する研究― 及川 絵里
NO.145802 YEAR 2015 環境造形計画分野 大沼研究室 (修士) 仙台地方における木製建具の近代史と継承に関する研究 尾形 章
NO.145801 YEAR 2015 産業デザイン計画分野 両角研究室 (修士) 学習コミュニティにおける支援ツールの利用者に対する能動的行動の有効性の研究−クリエイティブデザイン学科作品データベースを対象として− 氏家 拓海
NO.145803 YEAR 2016 産業デザイン計画分野 菊地研究室 (修士) 東日本大震災後の雄勝石に関する情報資源の基礎的研究 顧 錚
NO.155801 YEAR 2016 環境造形計画分野 大沼研究室 (修士) 単身者の職住スタイルとシェア居住に関する研究 ─ 仙台におけるコ・アトリエ付きシェアハウスの創出実践を通して─ 平山 雄磨
NO.145901 YEAR 2017 福祉デザイン計画分野 原田研究室 (博士) 連続的な発光誘導サインの製作と避難誘導計画への応用 永山 雅大
NO.165802 YEAR 2017 生活デザイン科学分野 小山研究室 (修士) 旧仙台領域における建築⽣産組織と建築細部意匠に関する研究 佐藤 諒
NO.175801 YEAR 2018 環境造形計画分野 大沼研究室 (修士) 東北地方における手づくり市場の研究 木村 一気